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2010/10/26
米国の小売店ではコーチのクリスティンレザーホーボーバッグは298ドルで売っている。日本では同じバッグに$711ドル(59,850円)出さなければならない。海外ファッションコラムサイトのBOFが伝えている。
この価格差は何もコーチに限ったことではなく、海外に拠点を置く高級ファッションブランドは、長い間、日本の消費者に他の市場よりもかなり高い価格を課してきたのだという。しかし今や、円高とインターネットによる世界価格の透明化により、日本の消費者はこの価格差にうんざりしている。
日本の消費者はアウトレットモールやオンライン販売での『割引』に慣れてきている。この価格が皮肉にも、世界の多くの小売店で売られている価格であるとのことだ。
それではなぜ、高級ブランドが一見価格の釣り上げとも思える倍近くの価格設定をすることができていたのだろうか?
かつて業界の専門家はアバクロ(Abercrombie & Fitch)の日本進出に対し非常に懐疑的であったが、同社CEOは「我々はプレミアムブランドであり、プレミアム価格で売ることができる」と一蹴した。もともと物価が高い日本のプレミアム価格は非常に高いために、このようなことは頻繁に起こっているようだ。
日本は消費税率が比較的低いが、日本人は食べ物だけで収入の13.4%を消費している。一方、米国は9.9%ほどだという。
価格が高いのは政府の政策に直接関わる製品である。保護貿易主義の関税率は、単に輸入製品の価格を増加させているだけではなく、国内企業を価格競争から遠ざけている。実質上のカルテルも高価格の原因となっている。
ファッション市場やアクセサリー市場では、ビームスやシップス、ユナイテッドアローズのような小売企業は基本価格を大体同程度に保ち、その過程の中で、消費者に対しての標準価格を設定している。
通常、海外のブランドが日本市場に進出する際、『プレミアム』ブランドと自身を位置づける。これは通常、日本の標準価格よりも高い価格付けをすることを意味している。例えば、スケートアパレルブランドのシュプリーム(Supreme)のTシャツの価格はニューヨークでは25ドルであるが、日本では約60ドルである。
この理由はシンプルである−企業は市場が許す限り高い価格を設定する。そして、日本市場は他の市場に比べ価格が高いため、ブランド企業はそれに甘えることができていたようだ。
1960年代から1990年代のように日本人の収入が多く安定的に増加しているときはこれでもよかった。しかし収入が1998年をピークに徐々に減り始め状況は変化し、ユニクロのように中国に生産拠点を設けることで高品質の製品をGapやH&Mに見られる西洋の標準価格で販売できる企業に大きなチャンスが回ってきた。
最近に日本における標準価格の低下により、日本参入への戦略は完全に新しいものとなってきた。H&Mとフォーエバー21の両社は、これまで安いと思われていた価格よりもずっと安い価格で商品を提供することで、大きな売上を上げてきた。実際、日本国内のアパレル企業は、消費者が心理的に標準価格と感じる価格を下げようとする動きを恐れているのだという。
ビームスやユナイテッドアローズは比較的上手く不況を乗り越えたが、中国製の低価格ラインを作ることで最近のファストファッションブームに答えた。デザイナーブランドのコム・デ・ギャルソンでさえ、中国製製品に加え、PLAYのような低価格ラインも立ち上げた。
しかしファッション業界全体が価格競争に向かう中で、ヨーロッパの高級ブランドは難しい立ち位置にいる。今日の日本の消費者は以前ほど裕福ではなく、自国経済の将来に対しても悲観的で、節約することに慣れつつある。もはや高級ハンドバッグを買うために貯金したり借金をしたりするという1990年代の論理に理解は示さない。そして再販店舗の巨大ネットワークであるYahooオークションのおかげで、日本には新品やほぼ新品に近い商品を正規店舗よりもずっと安い価格で買うことができる。実際、消費者はアウトレットモールや、ギルトグループ(Gilt Groupe)やユークス(Yoox)のようなサイトに目が向いている。
中国人旅行者は需要を支えるだろうが、ミドルクラスの日本人消費者が高級品市場を避ける中、ブランド各社がこのまま高価格を続けていくのは難しいであろう。しかし高級ブランドにとって単純に価格を下げることも選択肢にないだろう。なぜなら、高級ブランドの価格付けは、顧客に製品の価値や重要性を伝えるための重要な戦略的要素であるからだ。問題はデフレ傾向あわせて気付かれないように上手く価格設定を調整していけるかであるようだ。
コーチハンドバッグの米国価格の298ドルは今の日本にとってもってこいかもしれない。
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