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2016/07/07
グループインタビューやデプスインタビューなどの実査が終わったらその結果をレポート(報告書)にまとめることは非常に重要です。調査結果をもう一度振り返りレポートにまとめることで、実査中は気が付かなかった新たなファインディングが見つかることもしばしばです。また、調査レポートの配布をすることで、実査には参加をしなかった関係者と調査内容を容易に共有することができますし、また、調査レポートは社内の意思決定や合意形成をする上での材料ともなります。
一方で定性調査の調査レポートの作成は非常に労力のかかる作業です。アンケートデータの集計やチャートの作成など作業の大部分をソフトウェアに頼れる定量調査とは異なり、会話を中心とした自由な回答形式のデータを扱う定性調査では、インタビューメモや書記録の読み込みや分析、まとめの全てをレポート作成者が時間をかけて行わなくてはなりません。調査の規模が大きければ大きいほど扱う定性データの量は多くなり、時にはデータの波に飲み込まれてしまうのではないかと思うほど、膨大なデータの圧倒されてしまいます。
定性調査のレポート作成では、そのような時間のかかる作業を効率化しつつ、特定のデータに偏ることなく調査全体を反映した調査結果を効果的にレポートに反映させることが重要です。分析作業を効率化させるために目についたデータのみをハイライトさせるのでは本末転倒となってしまいます。
ここではグループインタビューやデプスインタビューの調査レポート(報告書)のまとめ方の一例を紹介したいと思います。
【定性データ分析】
レポートの作成は、インタビューなどを通して収集した定性データの分析から始まります。収集される定性データには、インタビューメモや、インタビュー録(もしくは録音音声)、インタビューで利用した質問票などが含まれます。分析作業の取り掛かりは、これらの定性データを見たり聞いたりして概要を把握するところから始まります。
もし既にインタビューの観察などをして概要を把握している場合は改めて行う必要はありませんが、1から分析作業を行う場合には概要を把握していくことは非常に重要です。概要を把握せずに分析に取り掛かると「木を見て森を見ず」の落とし穴にはまってしまい、分析作業の大きな時間のロスにつながります。
概要の把握ができたらいよいよ、詳細な分析に取り掛かります。次のステップに従って分析作業を進めていきます。
【定性データ分析1】 データをまとめる
上手にデータをまとめることは効率的なデータ分析につながります。そのコツは、「リサーチトピックに沿って整理されたデータの全てを一目で確認できること」です。
「リサーチトピックに沿って整理」とは、簡単に言えばディスカッションガイド(フロー)に合わせてデータを整理していくことです。インタビューから得られる定性データには、調査課題に関係するものしないものを含め、様々なデータが含まれています。そのため、効率的に調査課題に沿った分析をしていくためには、ディスカッションガイドに立ち戻り、何を知りたいかを確認しながら情報の取捨選択や優先順位付けができるようなまとめ方にしていきます。またガイドに沿って整理をすることで、異なるトピックごとの関連性を確認することも容易になります。
ディスカッションガイドに沿ってインタビュー記録(トランスクリプション)が作成されている場合は、それがそのまま活用できます。インタビュー記録が作成されていない場合は、ディスカッションガイドに沿って作成をしたインタビューメモなどを利用します。
次に「データの全てを一目で確認できること」ですが、これは全てのインタビュー記録(メモ)を一枚のシート上で一目で確認できる状態とすることです。トピックごとに全てのインタビューのデータが一覧できることで、全てのインタビューを通してのファインディングを見つけだすことが容易になります。
下の表がデータのまとめ方の一例です。縦方向にディスカッションガイドに沿ったリサーチトピックが並び、横方向にインタビュー記録(メモ)が並べられているので、全ての定性データを容易に一覧することができます。
【定性データ分析2】 アイデアを見つけ出す
あるテーマやトピックに注目をして全てのデータ(回答)を見渡すと、繰り返し出てくる言葉や類似した回答や意見が目につくはずです。このように繰り返し出現するアイデアは、調査全体のファインディングにつながる重要な情報です。次に行う分析作業はこのように繰り返し現れるアイデアを見つけて、調査で明らかにしたいテーマに対して全てのインタビューを通して対象者がどんな意見や考えを持っているのかを明らかにしていくことです。
この作業を進めていく上は、アイデアのコード化とグループ化が役に立ちます。「1. データをまとめる」でまとめた表を利用して、アイデアごとに情報を分かりやすい言葉でコード化して行き、共通するアイデアに関しては同じ色などを付けてグループ化をしていきます。このようにデータの分類を行っていくことで、膨大なテキストデータの中から、特定のアイデアのみを容易に見つけることができます。
アイデアの中には共通の言葉やフレーズを用いて端的に表現されているものがある一方で、ストーリー仕立てで婉曲的に表現されているものもあるので、じっくりと内容を確認していくことが必要です。
このようなデータのコード化とグループ化はデータを何度も見返す上で便利ですが、あまり細かく行うと時間のかかる作業です。そのためリサーチ課題に関係のある重要な点に絞って、効率的にこの作業を行っていくことが重要となります。
【定性データ分析3】 複数のアイデアを結びつけるアイデアを見つけ出す
個々のアイデアを見つけたら、次にそれぞれのアイデアを結びつける、複数のアイデアに共通するアイデアを見出します。この作業を行うことで、個別に発見されたアイデアの全体的なつながりが見えてきて、表面的には見えてこなかった新たな発見が見えてきます。
上の表では、高級時計から受けるイメージや、身に着けている人のイメージ、売り場のイメージに対するアイデアが個別に発見されていますが、対象者がそれぞれに対してもっている共通したイメージは「特別感」です。高級時計からうける特別感は、製品、利用者、売り場に対する個別のアイデアから構成されています。
このように個別のアイデアの関連性を見出して、複数のアイデアに渡るアイデアを見出していくことで、リサーチ課題に対するファインディングを組み上げていくことができます。
【定性データ分析4】 分析結果の妥当性を確認する
様々なデータを分析した結果、導き出されるアイデアについてその妥当性を確認することは重要なことです。その際に重要となってくるのが、そのアイデアにはあてはまらない「例外」です。これらの例外を完全に無視してアイデアを最終的なファインディングとして採用するのは簡単なことです。しかし、その「例外」を何度も見直して、導き出したアイデアが本当に根拠のある正確なものなのかを確認し、「例外」に対してもキチンと説明を用意することで、アイデアの妥当性はより高まります。
例えば対象者によって同じ質問に対する回答が異なる場合や、同じ対象者でも異なるアプローチやメソッドによって反応が異なる場合、また、分析する調査員によって理解が異なる場合など、なぜ違いが生じたかを分析しながら分析結果の妥当性を高めていきます。
またデータの妥当性は、分析手法の信頼性に大きく影響を受けます。分析作業を個人で行う場合、もしくはチームで行う場合でも、分析方法は全てにおいて一貫した手法が用いられていることを確認することが必要です。
<さらなる妥当性の向上のためにできること>
仮説を検証しながらインタビューを進める: 通常の調査プロジェクトでは、デプスインタビューやグループインタビューは複数の機会が用意されています。はじめのインタビューで得られたアイデアを仮説として用意して、以降のインタビューでこの仮説を検証していくことで、実査を進めながら検証作業を行うことができます。ただしあまり仮説にこだわってインタビューを進めてしまうと得られるデータに偏りが生じてしまうため、対象者から仮説に当てはめるための回答を無理やり引き出すことの無いよう、思わぬ回答が得られた場合は適宜仮説を修正したり、1から仮説を構築しなおすなど柔軟にインタビューを進めていくことが重要です。
他の調査員の視点と比較する: 1人の調査員が行った分析結果を、他の調査員の分析結果と比較をすることは、結果の妥当性を高める上で役に立ちます。主要な質問やトピックに対して、アイデアのコード化やグループ化を比較するだけでも十分な妥当性の向上が見込まれます。
【定性データ分析5】 調査課題に対するファインディングをまとめる
最後のステップでは、分析結果をもとに調査本来の目的である調査課題対するファインディングをまとめます。ここでは、分析結果から得られた個々のファインディングを見渡し、調査全体を通してどんなファインディングを得られたのかを考え、それを説明する構成を考えます。
このステップで重要なことの1つは、もう一度調査課題に立ち戻り、調査を通して答えるべきことを再度確認することです。定性データから得られる個々のファインディングは様々であり、それらを体系的にまとめることは難しく思えるかもしれません。しかし、調査課題に答えるという指針を常に持っておくことで、不要なファインディングは捨て、優先順位をつけていくことで、まとめ作業を効率的に進めることができます。
また重要なことのもう1つは、無理なく納得感のあるファインディングの組み立てをしていくことです。そのためには、個々のファインディングを論理的に積み重ねていくミクロな観点からの視点と、直感的にまとめとして言えそうなことを決めてそれを支えるファインディングを見つけ出すというマクロな観点からの視点を持つことが必要です。まとめ作業を行う上での視点がどちらか片方に偏ってしまうと、ファインディングのまとめは、論拠が十分でない納得感のないものになってしまったり、全体感を失った局所的なまとめになってしまう恐れがあります。常に論理と直感を駆使してミクロとマクロの両側の視点から、ファインディングをまとめていきます。
<続く>
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